長時間の乳幼児保育

最近、乳幼児(3歳未満)の保育に関して調べる機会がありました。私自身は保育についての素人なので、資料の紹介のみさせていただきます。2つの資料(英国・米国)はいずれも、保育の時間や質の良し悪しが子どもの成長に影響を与える可能性について記載されています。

① 3歳未満の子供が家族から離れた場所で保育を受けることに問題はあるのか

3歳未満の子を持つ母親が仕事のために家をあける機会が増えている。英国(イングランド)では、これらの子供を持つ母親の75%が仕事をしている。子供たちはしばしば保育施設に預けられ、子供の知らない人が世話をする。子供たちは母親から離されると不安になる。

愛着理論によれば、乳幼児が特定の養育者(主に母親)との間に築く情緒的な絆(愛着)が、その後の心理的発達や人間関係に根幹的な影響を与えるという理論で、家庭で母親との愛情関係を結ぶことにより、子供は安心感とセルフコントロールを学ぶ。

母親から離される機会が頻繁になると、子供のオキシトシン受容体が減ってホルモンバランスが崩れる。その結果、成人期にパートナーと深い愛情関係を結んだり、生まれてくる子供との間に深い愛情関係を結ぶ機会が減る可能性がある。母親と離れることのストレスは脳の神経回路にも影響を及ぼし、後の人生において他人への過度の依存体質や薬物依存をきたすことが起こりうる。

哺乳類がストレスをうけたときには、大脳辺縁系-視床下部-副腎皮質という一連の組織が反応する。身の危険を感じると視床下部に変化が生じ、副腎皮質からのアドレナリンが増える。この反応は 戦うか逃げるための体制を促し、骨格筋の血流が増え、消化機能は低下し、脳の成長に必要なタンパク質の生成を減らし、免疫機能は低下して、素早い行動ができるようになる。

主にcleveland clinic 資料より作成
大脳辺縁系

コルチゾール(ステロイドホルモン、副腎皮質から分泌)は緊急事態に際して身体を守るための重要な働きをするが、数時間から何日も分泌が続くと、全く違った影響を及ぼす。問題はこれが有害かどうかである。

1980年代、保育所に預けられた子供たち、中でも1週間あたり30時間を超えた場合に、外在化問題行動(自分の内面にある葛藤、ストレス、不満、不安などを、怒りや攻撃性として他者や環境に向けて表現する行動)、攻撃的な行動が見られた。保育所の子供達、とくに質の悪い保育を受けるとコルチゾールの濃度が常に高値を示し、正常な24時間周期のリズムが狂っていた。この現象は、子供たちの問題行動が収まったように見えても続いていた。

米国の研究者によれば、デイケア(保育園)の子供たちは家庭で育てられる子供達に比べてコルチゾールの濃度が高かった。内訳は保育園児の63%(151人)がコルチゾール高値で、40%はストレスによるものと考えられた。子供たちの血中コルチゾールが上昇すると、側頭葉に影響を及ぼす。この部位には海馬や扁桃体があるが、これらは情緒の安定性、善悪の判断力に関わっており、扁桃体は他人の状況や感情を読み取って共有する能力を司る。コルチゾール上昇により、さらには抗体レベルが低下して病気の頻度が増す。

子供のコルチゾール上昇は思春期、成人期にも影響を及ぼす。保育所に長時間過ごす子供たちは肥満の頻度が増える。幼少期に強いストレスを受けると成人期に基底細胞癌(高齢者の顔面に好発する皮膚がん)の発生頻度が増大する。

男の乳児の持続的な攻撃的行動(殴る、蹴る、噛みつく、押す、物を投げるなど、他者の身体に危害を加える行動)は成人になっても続き、 多動性・衝動的な行動・学業不振・犯罪のリスクを持つ。環境ストレスにより長期的には遺伝子が変化する。親の低質な子育て、親の死亡、虐待は子供の遺伝子を変化させる。重要な点は、変質した子供の遺伝子は、次の世代にも受け継がれる。

長期間保育所で過ごす3歳未満の子供達のうち、40%もの子供たちが被害を受けている可能性がある。

乳幼児保育に関するNICHDの研究

質の低い保育を週に10時間以上受けた場合、あるいは生後15か月間に2か所以上の保育環境におかれた場合は、母親がやや思いやりに欠ける場合に限るものの、母親への愛着が不安定になる可能性が高い。

保育の量が増えるにつれて、母子間の相互作用の細やかさや親密さが薄れるという関連性が、ささやかながら現れた。生後3年間を通じて、母親以外のケアを受ける時間が長いほど、子どもに対する母親の積極的な行動がいくらか減少した。保育を受ける時間が長かった乳幼児は、母親との関与がやや薄かった。

研究者は、36か月の時点で、生後6か月間の保育時間が長いほど、母親の子どもの心を読み取る細やかさが減少し、子どもへの積極的な関与が低いことを発見した。しかし、子どもの保育経験よりも所得や母親の学歴、両親が揃っていること、母親の離別の不安、母親の気分的な落ち込みなどの家族と家庭の特徴の方が、母子相互作用の質に深く関係していた。

子どもの保育経験よりも家族の特徴(とくに母親の子どもの心を読み取る細やかさ)の方が、子どもの行動に強い関係があることがわかった。保育の質は、子どもの行動と最も一貫した関連性を持っていた。より細やかで繊細な配慮が受けられる保育に預けられている子どもは、2~3歳時点で、保育者が報告した問題行動の数が少なかった。

質の高い保育は、積極的な保育の提供と言語的な刺激と定義された。つまり、保育者がどれだけ頻繁に子どもに話しかけたり、質問をしたり、子どもの問いに答えたりしたかである。

生後3年間の保育の質は、子どもの認知・言語発達に、わずかながら一貫した関係を持っている。しかし、ここでも、家計や母親の語彙、家庭環境、母親による認知的な刺激などの方が、言語発達と強い関係があった。

認知発達に関しては、母親による長時間の育児は子どもにとってなんらプラスにならないことがわかった。実際、長時間母親が世話をしている子どもと、保育を受けている子どもとを比べた時に、認知・言語結果において現れた数少ない差異は、長時間の母親による育児に比べて質の高い保育は有利で、質の低い保育は不利だということであった。

まとめ

質の高い保育は、次の点に結びつくことが発見された。
・母子関係がよりよくなる。
・細やかさに欠ける母親の場合でも、乳幼児が不安定な愛着を持つ可能性が低い。
・子どもの問題行動の報告が少ない
・保育を受ける子どもの認知能力が高い
・子どもの言語能力が高い。
・修学レディネス(子どもが小学校での集団生活や学習をスムーズに開始・適応できるように、心身の準備が整った状態)が高い。

逆もまた真なりである。質の低い保育は、以下に結びつく
・母子関係の調和度が低い
・すでに赤ちゃんの心を読み取る細やかさに欠ける母親の場合に、母子の愛着がさらに不安定になる可能性が高い。
・問題行動が多く、認知・言語能力、就学レディネスがともに低い。

より長時間の保育、あるいはより長時間の保育歴は、以下に結びつく
・母子間の相互作用が弱い。
・2歳時点で問題行動に関する報告が多い。
・細やかさに欠ける母親の場合に、乳幼児が不安定な愛着を持つ可能性が高い。

より短時間の保育は、以下に結びつく。
・母子間の相互作用がよりよくなる。
・赤ちゃんの心を読み取る細やかさに欠ける母親の場合でも、乳幼児が不安定な愛着をもつ可能性が低い。
・24か月における問題行動が少ない。

Dr. Sumi