本年も早3月になり、4月を迎えようとしている。季節柄としては昼夜の寒暖の差が大きく、まだまだ肌寒い日が続いている。昨年より非常に寒い日が続いているので、早く暖かくなって欲しいものだと感じる。
4月になると世間一般では新年度という事で、出会い・別れ・引っ越しなど人の行き来が多くなる。お花見など行楽的にも楽しみな時期とも言えよう。

その何気ない日常の中でいち早く季節感を体感するのが、皆さんほぼ毎日1回以上は利用する「コンビニ」である。季節毎のど真ん中に来る旬の食品メニューは、その年度の新商品のお披露目ともあって、コンビニ業界は最先端でダントツに早く、商品を売り場に陳列する。人々はそれを見て三者三様ではあるが季節の先取感を味わったりする。
お盆が終われば、暑いのにレジ横におでんや肉まんなどのホット系、クリスマスが終わると節分の巻き寿司、今のこの時期であれば、先日ざるそばや冷やし中華を見た。その時に「まだ寒い時期なのに」と思うが、各社揃って陳列させていくのだから、きっと何かの消費者マインドの法則みたいな事もあるのだと思う。
コンビニ業界でM&Aの影響もあって、取り分け大手と言われるのが「セブンイレブン」「ローソン」「ファミリーマート」である。そこで、私が見た本の一部を紹介させて頂く。
それはセブンイレブンで“小売りの神様”と名を馳せた、鈴木敏文氏の対談記事(数年前)であった。
鈴木敏文 – Wikipedia ←詳しくは左記を参照ください。
何がすごいかと言えば、元々のイトーヨーカ堂全盛期時代には、店に並べる新商品のお惣菜などの店内調理品やセンター調理される製品は、100%全てにおいて鈴木氏が味見し、チェックしていた事である。鈴木氏の決済なくして店に並ぶ商品ははないという事だ。
これは管理職とてそう簡単に出来る事ではない。よほどの信念と根気が問われる。鈴木氏はコンビニのセブンイレブンを立ち上げ、両社のトップを兼務し2016年に勇退されたのだが、私が最も衝撃を受けたのは下記の部分である。
その対談記事の中でインタビュアーが、「混沌としてきているコンビニ業界で、この店のここが凄いなとか、何か印象深い事はなかったですか?」と聞いたのに対して、鈴木氏は;
「ない。僕はコンビニを自分でやってきて、ローソンやファミリーマート、他のコンビニに入った事が1回もないんです。大事な事は同業他社との競争じゃない。お客さんの変化に対して自分たちがどう対応できるかということなんだ。なぜスーパーがダメになったかというと、Aチェーンはどうだ、Bチェーンはどうだとか同業他社だけを見て価格競争をしてきたから、それでみんな自滅しちゃった。コンビニだって、今たまたまうちは他社よりも伸び続けているけど、ほかとの競争じゃないんだよ。お客さんの嗜好との競争なんです。」
上記の記事を見て鳥肌が立った。1回も視察はないの? 同業他社チェックは重要なのではないの? 言われてみれば、セブンイレブンの製品は独創的な製品が多く、確かに美味しいと感じていた。同業他社との争いではなくて、お客さんの嗜好との競争だなんて本当に素敵で奥が深い。いかに自らのお客様に対する姿勢が重要なのかを教えられて、ハッとした瞬間だった。
私も含めて、何かと他人と自分を比べて様々な気持ちになり、気持ちが浮き沈む事は自然な事ではある。だが、私はこの記事を読んで深く考えさせられた。
自らが新製品を100%チェックし、他社の売れているものを真似て製品を出すことはしない。お客様の要望や期待にどのように対峙するか、そのことのみに特化している鈴木氏の姿勢は、自灯明・法灯明の精神そのものである。鈴木氏の勇退後、最近のセブンは不調気味と言われている。
先月記載の将棋の羽生さんの記事を引用すると、いかに自分の戦型が重要であるかである。
「それはそんな人達だから出来るのだろう!」という人がいるのも自然な発想ではある。しかし、最近携わって勉強させて頂いている、六花の会での御言葉をお借りすると、「ど真剣」で目の前の出来事に対応していく。真剣に取り組む、の上を目指す「ど真剣」の気持ちになった時に、見えなかった景色もきっと見えていくのではないかと感じている。その境地を目指して自らを鼓舞していきたいものだ。
合掌 椙原