循環器専門医なら誰もが知っており、今や世界的にもよく知られた心臓の病気に、「たこつぼ心筋症」または「ストレス心筋症」という病気があります。中年以降の女性に多く見られ、強いストレス状況で胸痛・呼吸困難・心電図異常をきたし、冠動脈撮影をするまで急性心筋梗塞と区別のつかない病気です。ほとんどの場合、2か月程度で後遺症を残さずに治ります。
左心室というのは心臓にある4つの部屋の中の一つで、肺から心臓に戻ってきた血液を全身に送り出す働きをしている場所です。その左心室の筋肉が一時的に弱って膨張し、たこつぼのような形になることからこの名前がつきました。
なぜ心筋が弱るのか、考えられている理由のひとつに、アドレナリン等による中毒説があります。アドレナリン・ノルアドレナリンといったホルモンは「カテコールアミン」と呼ばれています。これらのホルモンは活動時・興奮時に活発に分泌されるものですが、極度のストレスにさらされると過剰に作られ、心臓の筋肉を一時的に弱らせてしまうという機序です。
ある日本人医師がこの病気を発見しました。急性心筋梗塞を疑ってカテーテル検査をした際、冠動脈に異常がない例が見られたことがきっかけです。
この先生は若い頃、大学を離れて外の病院に勤務するようになってからは、教授や年上の先生方に叱られてばかりでした。叱られる理由もわからずに、惨めな思いをされたこともありましたが、当時の医学的常識にとらわれず、自らの感性・気づきに従って一心に臨床の現場で研究を重ねた結果、このような世界的な発見に至ったとのことです。
以下の図は ST VINCENT’S HOSPITAL HEART HEALTH Takotsubo Cardiomyopathy から引用・作成しました。
Dr.Sumi