アインシュタインとフロイト

明けましておめでとうございます。

本年もどうぞよろしくお願いいたします。

新年早々にアメリカが軍事作戦で、ベネズエラのマルドゥ大統領を拘束して、アメリカに連行して、大統領をすげ変えてしまう、というトランプ大統領の力技を目の当たりにし、改めて、暴力について考えさせられた。折しも、アルバート・アインシュタインとジグムント・フロイトによる「人はなぜ戦争をするのか」という往復書簡の単行本が目に留まった。

アインシュタインのフロイトへの手紙

1932年、国際連盟の協力機関の提案で、誰でも好きな方を選び、今の文明でもっとも大切と思える問いについて意見交換できることになり、フロイトさんあなたを指名した。

私の選んだテーマは「人間を戦争というくびきから解き放つことはできるか?」である。

私の考えは、以下のとおりである。

戦争から解き放つには、すべての国家が一致協力して、一つの機関を創り上げればいい。この機関に国家間の問題についての立法と司法の権限を与え、この機関に解決をゆだねること。

さらに国際的な平和を実現しようとすれば、各国が主権の一部を完全に放棄し、自らの活動に一定の枠をはめなければならない。

しかし現実には平和は訪れていない。その原因は人間のこころ自体に問題があるのではないか。

なぜ少数のリーダーたちがおびただしい数の国民を動かし、彼らを自分たちの欲望の道具にすることができるのか?

答えは一つだと思う。人間には本能的な欲求が潜んでいる。憎悪に駆られ、相手を絶滅させようとする欲求が。これこそ戦争にまつわる複雑な問題の根底に潜む問題ではないかと考える。

世界の平和という問題に対して、最近の心理学の知見に照らして、集中的に取り組んでいただき、見解を教えて頂きたい。

(以上がアインシュタインの手紙の要約)

対するフロイトのアインシュタインへの返答

(概ねアインシュタインの見解を肯定している)

あなたの質問を、心理学の観点から見て戦争を防止するにはどうすればよいのかと受け止めた。

原始の時代から、人と人との間の利害の対立、これは基本的に暴力によって解決されるものである。動物たちはみなそうやって決着をつけている。人間も動物なのだから、やはり暴力で決着をつける。

人間が小さな集団を形作っていたころは腕力が全てを決した。

次に武器が用いられるようになり、頭脳や才知がむきだしの暴力を凌駕するようになった。

社会が発展していくにつれ、暴力による支配から、法(権利)による支配に変わっていった。

多くの弱い人間が結集し、団結の力で暴力を打ち砕く。人間の力が法として現れ、この力も暴力には変わりはない。

法の支配にはある条件が必要で、多数の人間たちの意見の一致と協力、それが安定したもので、長く続かなければならない。

戦争を確実に防ごうと思えば、皆が一致協力して強大な中央集権的な権力を創り上げ、何か利害の対立が起きた時にはこの権力に裁定をゆだねるべきで、それしかない。

社会を一つにまとめるのは、一つに暴力、二つにメンバー間の感情の結びつき、帰属意識である。

(ここから心理学的考察)

人間の欲望には二つある。保持し統一しようとする欲動(エロス的欲動)。もう一つは、破壊し殺害しようとする欲動(タナトス的欲動)で、攻撃本能や破壊本能。

過去の歴史を見ると、人間の心にはとてつもなく強い破壊欲動があることがわかる。

ましてや理想への欲動と破壊欲動が結びつくと、残虐行為に走ることもある。

人間から攻撃的な性質を取り除くことなどできそうにない。

しかし、人間の攻撃性を戦争という形で発揮させなければよいのだ。戦争と別のはけ口を見つけてやればよい。

戦争は破壊欲動のなせる業なら、その反対のエロスを呼び覚ませばよい。だから、人と人との間の感情と心の絆を創り上げるものは、すべて戦争を阻むはずである。

そこで、感情の絆には二つある。一つは愛する者への絆のようなもの。隣人を汝自身のごとく愛せよ!もう一つは、一体感や帰属意識によって生み出される。人と人との間に大きな共通性や類似性があれば感情レベルの結びつきが得られる。

自分の欲動を余すところなく理性のコントロール下に置く状況が理想的であり、

文化の発展が、肉体レベルでの変化、人間の心の在り方に変化を引き起こし、ストレートな本能的な欲望に導かれることが少なくなり、本能的な欲望の度合いが弱まってくる。

心理学的に見た場合、文化が生み出すもっとも顕著な現象は二つ。一つは、知性を強めること。力が増した知性は欲動をコントロールし始める。二つ目は、攻撃本能を内に向けること。好都合な面も危険な面も含めて、攻撃欲動が内に向かっていくのである。

平和主義者なら、戦争への拒絶反応は体と心の奥底からわき上がってくるはずである。

全ての人間が平和主義者になるまでどれくらいかかるか分からないが、けれど、文化の発展が生み出した心の在り方と、将来の戦争がもたらすとてつもない惨禍への不安──この二つのものが近い将来、戦争を亡くす方向に人間を動かしていくと期待できるのではないだろうか。

文化の発展を促せば、戦争の終焉へ向けて歩みだすことができる!

(以上がフロイトの返事の要約)

私は以下のような感想を持った。

人間も動物だから、放っておくと力のあるものが弱いものを駆逐するという弱肉強食の世界に陥る。そこで、フロイトの言うようにエロスの欲動=慈悲の心を発動することによって、真の平和主義者が多数派になれば戦争は無くなるのではないだろうか。真の平和主義者とは、文化の発展を受け入れた結果、生理的レベルで戦争を拒否するようになった人間のことである。そのような「人づくり」に日々努力していきたい。

※文化とは、「人間が社会の中で身につける振る舞いや生活様式全般のこと」で、「知識・信仰・芸術・道徳・法律・慣習など、社会の成員として獲得する能力や習慣の複合的な総体のこと」